サイン盗み問題|勝利至上主義の問題点を考える

2019年4月17日

2019年選抜高等学校野球大会(春の選抜甲子園大会)の星稜高校(石川)対習志野高校(千葉)の試合において、星稜高校側が習志野高校のサイン盗みを指摘、試合終了後に星稜高校の林監督が習志野高校の控え室に抗議に行った事が話題となりました。

「怒鳴り込んだ」などという過激な表現や、習志野高校の小林監督が「星稜もやっているでしょ」と返答したことなど、真偽は定かではないにしろ野球ファンとしては悲しい事件であると捉えています。

この件に関しては様々な報道がされていますが、スポーツライターの小林信也氏の記事が面白かったので以下に紹介します。

サイン盗みの是非と林監督の行動に主眼をおいた報道が多い中で、高野連のにまで踏み込んで表現されたことは非常に価値があると感じます。

この記事から私が感じたことなどを少しまとめてみます。

テーマとしては、

  1. サイン盗みの是非
  2. 指導者としての行動
  3. 勝利至上主義の弊害
  4. 高野連の対応

の4つに関して自分なりに考察してみました。

サイン盗み問題

サイン盗みの是非

今回の騒動後、ネット上を含めて最も問題として適されたのはこのサイン盗みの是非についてだったと感じました。

実際にサイン盗みにはあったのか、そしてそれは今現在多くのチームが行っているのか、さらには関係者にアンケートをとって過去にサイン盗みを経験したことがあるのかなど、さまざまな報道を目にします。

ほぼ全ての情報でサイン盗みは禁止されていると周知されているが、それを承知で行っているチームがあるというのが前提のようですが、問題の確信となる部分は、何故禁止されている行為を行うチームと、そうでないチームがあるのかということでしょう。

サイン盗みは、高校野球に置いては1999年以降禁止事項となりました。それ以前は普通に作戦として公然と行われていて、禁止事項もでもありませんでしたが、現在ではプロ野球でもセ・パ両リーグのアグリーメントに「ベンチ内、ベースコーチ、走者から打者に対して球種等の伝達は行わない」との記載があるようで、いずれにしろこのサイン盗みが禁止されるべき行為ということは事実です。

では1999年以前は、サイン盗みという行為はどのように捉えられていたのでしょう?

個人的には野球漫画「キャプテン」でも描写された頭脳的作戦というイメージもあり、どちらかというと肯定的にとらえていた部分がありました。

努力と根性を前面に出した墨谷二中の野球の中で、イガラシキャプテンが行った2塁ベース上からのサイン伝達は、身体能力や選手層などにおいて敵チームに劣る自分たちが試合に勝つための創意工夫という捉え方でしたので、実際の野球でもこのサイン盗みは普通にあって然るべき行為と思っていました。

古い話ですが、プロ野球ではバッテリー間のサイン交換に乱数表を使っていた時代がありました。

サインを読まれることを防止するために、毎イニング乱数表を変更してサイン交換をするのですが、この行為はサインが盗まれることは前提で、それを防止する対策が取られていたと言うわかりやすい事例です。

乱数表の使用は試合時間短縮への試みからその使用が禁止されましたが、高校野球レベルでもサインを盗まれないように工夫することは現在でも普通に行われているようです。

つまりほとんどのチームに置いてこのサイン盗みがあることは認識していて、それを行うのか、また行わないが対策はするのか、そしてその両方を行うのかが判断されるわけです。

判断といってもこれは監督や指導者から強制される以外に、選手が自発的にやっている場合もあるという情報もありました。

それはそれで本当に選手がやっているのか、指導者に責任が及ばないように箝口令が敷かれているのではないかと疑いたくもなりますが、今回のテーマとは意図が違うのでそれはさておき、禁止行為と知りながらサイン盗みを行う側の言い分は極論を言うと「試合に勝ちたいから」という理由に集約されるようです。

勝利至上主義については後述するのでここでは詳しく書きませんが、

  • みんなやってるから自分たちもやる
  • バレなければOK
  • たとえバレても罰則はない

などの考えがあるのであれば、同じルール上のフィールドで争う上でのフェアな精神は皆無であると言えるでしょう。

先述したように禁止されていない時代の戦略であればそれは肯定できますが、ルールができた以上それを守るのが全てに優先されるべきです。

明徳義塾高校が松井秀喜選手に敬遠策を取った事例を出せば、そこまでして勝ちたいのかという意見と、勝利することを優先した当然ありえる采配という考えがあったと思いますが、敬遠は競技上認められたルールであり、「正々堂々」と「綺麗事じゃない」というキーワードの対決だったように思えますが、今回のようにルール違反をして綺麗事云々を語るのは明らかに間違っていると思います。

過去から現在に至るまでの経緯を踏まえれば、サイン盗みを行う側の考え方も理解はできるのですが、ルールとして決められた以上それに従うというのはスポーツに携わるものとして最低条件であり、それを肯定する環境が蔓延っているのであれば悲しいことだと感じています。

指導者としての行動

続いてこのサイン盗み行為に対する、星稜高校の林監督が取った行動を振り返ってみます。

報道によれば、林監督が習志野高校のサイン盗みに気付いたのは自チームが対戦しているときではなく、習志野高校の1回戦である日章学園戦で、林監督は映像を撮りながら試合を観戦し、サイン盗みを行っていたことは確信できていたようです。

これを受けて当然監督として対策を打たなければなりませんが、林監督は試合中にこれを選手に伝えたことが平常心を失うことにつながったと後悔もしているようですが、本当に試合中に急に伝えたのであれば選手は動揺するでしょう。

試合前日などに選手に伝えるとともに対策を取るという考えもありますし、実際のところはどうであったかは知る由もありません。

その他の対策として石川県の高野連に所属する審判にサイン盗みについて伝え、当試合の審判にも伝えていただいたことで主審も敏感に対応してくれたと言っています。

さてその林監督ですが、試合中にサイン盗みを捕手が主審にアピールするも改善されないため、自らも確認する行為を行っています。

そもそも高校野球で監督が主審に直接抗議することは禁止ですので、この事自体が異例なんですが、ここで審判団が集合して確認したようですが、何事もなかったかのように試合再開、当該事項についての説明もされませんでしたから見ている方としては不可解でした。

あの状況で審判がサイン盗みを認めることは考えにくいですし、認めたとしても罰則はないので、せいぜい習志野の監督に注意を与えるくらいしかできないでしょうが、抗議をスルーされた林監督は怒りが収まらなかったのでしょう。

なんと試合終了後に、相手控室に抗議に行くという行為に及びました。

このときのやり取りの中で、習志野高校の小林監督が「星稜もやってるでしょ」という発言をしたということですが、これについてはその場の雰囲気で売り言葉に買い言葉ということもありますし、興奮して思ってもいないことを発言してしまうということも考えられますので、実際の現場にいない部外者が是非を判断することは控えたほうがいいと思います。

しかしながら、高校野球の監督がいくら納得のいかない行為をされたからといって、控室に抗議に行くというのはやりすぎですし、そこまで感情をコントロール出来ないということを自ら露呈しまったとも言えます。

その後に週刊誌のインタビューに答えているのも違和感がありますし、おそらくはルール違反を許さない正義感からの行動だと思うんですが、ここまで行くと自分を正当化するためにやっているのではないかと判断されても仕方ないように思えます。

私個人的には、納得のいかないことにきちんと主張できる林監督には好感が持てますし、選手たちも「自分たちのために監督は戦ってくれた」と思えるかもしれません。

そのあたりは監督と選手間の関係性が大きいですから、選手がこの件をどのように受け止めているのかは軽々に判断はできませんが、この試合の敗戦とサイン盗み事件が大きな心の傷になったことは間違いないでしょう。

結果論になってしまいますが、林監督が行った行為は指導者として正解だったとは言えないでしょう。

しかしながら問題の本質は、野球という競技における勝利至上主義の蔓延、そして高校野球連盟の対応にも問題があると小林信也氏は提言しています。

勝利至上主義の弊害

冒頭で小林信也氏の記事を紹介しておきながら、ここまであまり内容に触れていませんでしたが、この記事で注目すべきは低年齢世代の野球にも勝利至上主義が蔓延していると発信していることだと思います。

主題はサイン盗みの是非であろうかと思いますが、記事中には小林氏の野球指導歴から経験した勝利至上主義の事例を上げています。

 私は中学硬式野球の監督を昨春まで8年間務めたが、練習試合の途中、守備から戻ってきたエース投手が「ランナー・コーチがサインを教えています」とつぶやいた。次の守りで確認すると、こちらの捕手のサインの出し方も甘いのだが、確かに一塁コーチが捕手のサインを覗き込んで打者に教えている。タイムを取って主審に伝えた。すると、練習試合のため主審が相手チームの審判だったせいもあるだろう、一瞬、嫌な顔をされた。それからしぶしぶ、相手ベンチに行って抗議の趣旨を伝えた。相手の監督はさらに嫌な顔をして、一度は審判に抗弁した。しかし、審判に諭され憮然としてベンチに腰を下ろした。

(そんな野暮なことを言う監督のチームとは金輪際、試合をしたくない)という顔に見えた。

「どこだってやっていること。やらなきゃ勝てない。高校でもやっているのだから、中学でそれを教えなければ選手は強豪校で使い物にならない」

以上は記事中の引用ですが、おそらく野球に関係していたほとんどの人は勝利至上主義に直面したことがあると思いますし、その是非は自分が関係したチームの都合のいいように解釈しているのではないでしょうか。

個人的には問題の本質はこの「解釈の違い」だと思っています。

小林氏が提言しているのは勝利至上主義の考え方が、高校野球のみならず中学、そして小学生の野球にまで影響を与え、それが当たり前のように考えている関係者が増えることを危惧していると感じられます。

勝利至上主義が間違っているとは思いませんし、ルールの中で勝利につながる最善の方法を模索するという考え方は個人的に共感できます。

しかしながらプロでやっているから高校でも、高校でやっているから中学でも、そして学童野球でもという流れがあるのであればそれは間違いなく大人の責任です。

高校生以下の子供が、選手主導でルール違反を行うというのは考えにくいですし、もしそんな事があるのならば指導者が戒めるのが当然の行為なのでしょうが、結局は指導者が示したことは正しいと思い込ませられているというのが現状なのかもしれません。

そこに携わる父兄も、宗教的に指導者の考えを肯定しているという場合が多いというのも問題の一端なのかもしれません。

いずれにしろ勝つことが正義という考えで一貫している人達から見れば、今回の問題は「綺麗事を言うな」と感じられるでしょうし、フェアな関係性の中で競技を行うことが理想である人には、サイン盗みやそれに類似するルールを無視した行為は許しがたいものでしょう。

解釈の違いと言ってしまいましたが、本質はそんなに簡単なものではなく、また正解を導き出すこともできない難解な問題なのかもしれません。

それらを踏まえて勝利至上主義が肯定されるか否か、自らが置かれた環境に合わせて考えていくことが必要だと感じています。

高野連の対応

今回のサイン盗みの件に関して、特に高野連の対応に落ち度が言えないかも知れませんが、小林信也氏は記事の中で、

このような疑惑が指摘されたら、根本的に改善する方向に動くのが日本高野連の当然の姿勢だろう。ところが、星稜の監督をバッシングする方向で事態は収拾されているのだ。

と書いています。

事前のサイン盗み対策が出来ないことはさておき、疑惑が発生したら真偽を確認して改善するのは主催者の責任においてやらなければいけないことでしょう。

ところが事態の収集において、抗議した側を一方的に悪者扱いするやり方に問題提起していると感じられ、個人的にもその通りだと思います。

とくに日本高野連の事務局長が使った「ノーサイド」という文言についての解釈は、非常に共感できました。

この問題以外にも、最近では新潟県での投球数制限での問題や、甲子園では女子マネージャーや女性部長のグラウンド入り禁止など、様々な事象でその対応を疑問視されてきた高野連ですが、小林氏の言うとおり裸の王様となっていると感じられる高校野球ファンは多いと思います。

まとめ

ちょっと硬めの文章で書いてきたので、まとめはフランクに。

今回のサイン盗み問題は、高校野球に携わっているものならその存在は当然知っているし、やっている高校があるのも承知していることが多い。

試合中に問題が表面化することは少ないけど、星稜の監督は試合に負けたのが悔しくて控え室まで怒鳴りこんだのがこの事件。

試合に勝ってたら抗議なんてたぶん行かないからね。

その後の対応で謝罪したのは良いけど、「星稜もやっているでしょ」といわれたことは許せないらしく、事の真偽を説明するためなのか自分の行動を正当化したいのかはわからないけど、勝手に週刊誌のインタビューを受けてペラペラしゃべってしまったことは多分間違い。

まあ、ルール違反を正そうと行動するのは間違いではないし、やり方が乱暴だっただけで問題を提起した林監督はどちらかというと応援してしまう。

ところが高野連やメディアは林監督を悪者にしているし、なんと星稜高校まで監督の指導自粛を行ってしまった。

林監督を悪人として事を収めるのならば、もう少しこの案件を真剣にとらえて、再発しないように対処することが求められると思うのだがそんな気配はない。

結局選手がかわいそうという結末なのだが、誰もそこには触れないっていうね…

こんな感じに理解しているんだけど間違ってるところがあったらゴメンナサイ。

話は少し逸れるけど、北信越地区の高校野球ファンなら知ってる人も多いと思うけど、林監督って時々思いもよらない迷采配をすることで有名。

頭に血が昇ると見境がつかなくなるのかな?

あと小林信也氏、ワイドショーとかに出演するとたいしたことを言わないオッサンだと思っていたが、文章を書くと結構面白いんだね。

これからも応援しています。

高校野球

Posted by sarai